生活保護と裁判
生活保護の領域では、保護受給権の権利性と憲法二五条を争点とした「朝日訴訟(最大昭四二・五・二四民集二一巻五号一〇四三頁)」から、最近では保護の変更やその内容を争点としたものが多くなっている。まず、最低生活保障を享受するのは誰かという点では、日本国籍を有しない外国人が生活保護の受給権を求め争ったものがある(神戸地判平七・六・一九判例自治一三九号五八頁、東京地判平八・五・二九判時一五七七号七六頁、同旨のものに東京高判平九・四・二四判時一六一一号五六頁)。
これらはいずれも生活保護法一条、および二条、さらに憲法二五条、一四条を根拠に争ったものであるが、判決では憲法二五条一項の解釈を国民一人一人に具体的権利を賦与したものではなく、生活保護法一条及び二条も、保護を受けることができる者を「国民」に限っているので、外国人が同法によって具体的権利を享有していると解することはできないとし、保護申請を却下した行政処分を違法とはいえないと判断した。
また保護行政においても「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和二九年五月八日社発第三八二号厚生省社会局長通知[一部改正昭和五七年一月四日社保第一号])のなかで、外国人に対する生活保護の取り扱いを日本国民に準じたものとし、権利として保障するものではなく一方的な行政措置によるものであり、日本国民に保障されているような保護請求権や不服申立の権利もないという考え方を示している。
また、生活保護法第四条の補足性の原理をめぐっては、近年、加藤訴訟(秋田地判平五・四・二三判時一四五九号四八頁)や、中嶋訴訟(福岡地判平七・三・一四、福岡高判平一〇・一〇・九判タ八九六号一〇四頁)があげられる。加藤訴訟では、リュウマチと胃潰瘍で働くことができず生活保護を受給していた原告が、妻も病弱で介護が必要な高齢者であったことから、将来入院の際に必要とされる付添看護料の支出に備えるため、保護費と国民年金の一部である障害年金を源資として約八一万円を貯蓄していたところ、その事実を知った福祉事務所長が貯金の一部を収入認定し、貯金の大部分についても用途を限定するなどの保護変更処分や指導指示に対して、無効確認訴訟を起こしたものである。これに対して裁判所は、収入認定された収入と生活保護費のみが源資となった預貯金については、その使用目的が健康で文化的な最低限度の生活保障および自立更生という生活保護費支給の目的や趣旨に反するものではないとし、また国民感情からも違和感を覚える程度の高額な預貯金ではない限り、生活保護法四条、八条でいう活用すべき資産金銭には該当しないとして、原告の請求を認めるものであった。また中嶋訴訟でも、生活保護を受給する原告が長女の進学に備えるため郵便局の学資保険に加入し、保護費の中から毎月三〇〇〇円程度を支払っていたところ、満期の払戻金を福祉事務所長が収入と認定した保護変更処分について、処分の取り消しを求めたものである。地裁では審理中に原告である父親が死亡したことによって、保護の受給権が一身専属性であることを理由に娘二人の原告適格を認めず、処分の取り消し請求を棄却した。しかし高裁では、生活保護費からの貯蓄は国民感情からみて違和感を覚えるようなものでなければ許されると判断し、保護変更処分を取り消して原告の請求を認めたが、実施機関に対しての慰謝料請求については行政処分行為に故意や過失があったものとまではいえないとして、原告の請求を退ける結果となった。
また、生活保護の廃止変更処分の適法性を争点としたものでは、生活保護の廃止決定が違法であり、精神的損害を受けたとして国家賠償請求が起こされた柳園訴訟があげられる(京都地判平五・一〇・二五判時一四九七号一一二頁)。
判決では生活保護の実施は、国による機関委任事務であり、国(主務大臣厚生労働大臣)は、宇治市の市長及びこれから委任を受けた福祉部長が保護実施権限を適正に行使するように指揮、監督する立場にあることから、その権限行使にあたり福祉部長が行った違法行為について、国家賠償の一部が認められるとし、原告の請求を認めたものであった。
さらにこの事例では、保護廃止決定をなし得る条件についても詳しく判示している。つまり、生活保護法が明示している保護の廃止要件とは、被保護者が保護を必要としなくなった場合の同法二六条一項、被保護者が立入調査を拒んだ際の同法二八条四項、実施機関が行う指導指示に従うべき義務に違反した場合の三つをあげながら、居住実態の不明が保護廃止の事由に該当するか否かを争点とするものであった。
これらは生活保護法が憲法二五条を具体化し、かつ最低生活保障を図る最後の手段であることから、保護廃止決定が慎重を帰す行政処分であることを確認し、また生活保護法を実施するうえでの生活保護行政の裁量権を争点にしたものである。また、私的扶養との関係で世帯単位の原則が争点となった第一次藤木訴訟(東京地判昭四七・一二・二五判時六九〇号一七頁)、その裁判費用を保護費として支給することを求めた第二次藤木訴訟がある(判時九二三号・二三頁、訟務月報三一巻一号一六一頁、判タ六六九号一一九頁)。さらに居住実態と生活保護との関係では、ホームレスと稼働能力の活用を争点とした林訴訟があり、地裁では稼働能力の有無をめぐって、稼働能力を認めた福祉事務所長の判断を違法としたが、高裁では原告の主張は退けられた(名古屋地判平八・一〇・三〇判時一六〇五号三四頁、名古屋高判平九・八・八判時一六五三号七一頁)。
また、自動車の所有・借用と指導指示違反による保護廃止処分をめぐるものもある(福岡地判平一〇・五・二六判時一六七八号七二頁)。これは、自動車の所有及び借用等を禁止した指導指示に違反したとして、市福祉事務所長が生活保護法二七条に基づく保護廃止処分の違法性を争ったものである。裁判所は、自動車の所有及び借用につき、次官通達等の取扱は一応の合理性があり相当と認められるが、保護法上の指示違反を理由に最も重大な処分を行ったことは重きに失し処分の相当性を欠き違法として取消したものである。
そして、生活保護申請の却下をめぐり、福祉事務所職員が家庭訪問を行う際の居宅立入調査と生活保護却下処分の取消を求めたものも存在する(東京地判平六・九・三〇判自一三三号六二頁)。ここでは、生活保護法の二七条、二八条で規定する立入調査権と保護の認定との関係を争点としたものであるが、判決では福祉事務所職員による家庭訪問の際の行為である居宅立入りが、それぞれ生活保護法二七条に基づく指示、同法二八条一項に基づく調査を実施するためのもので適法であるとの判断を下した。
さらに、生活保護受給世帯における高齢者世帯の急増に伴って、介護問題が争点となったものも現われている(東京地判平八・七・三一判時一五九七号四七頁、金沢地判平一一・六・一一賃社一二五六号三八頁)。
2009年01月13日
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