「コンプライアンス=法令遵守」は、憲法21条「知る権利」との関係で整理した方がいいと思われます。
最近の食品をめぐる安全性問題や環境問題、製品の製造過程に伴う問題などから、消費者である国民の「知る権利」がこれまで以上にクローズアップされています。
私たちの暮らしの中でも、生産と消費が完全に分離し、またマスメディアの発達により情報の送り手と受け手との間にも直接的な関係が薄くなるなか、国民の「知る権利」の保障は、民主主義国家の成熟度を示すものです。
「知る権利」とは?
「知る権利」という概念は、それほど古いものではなく、第二次世界大戦中の国家機密に対する厳しい報道管制への反発として、アメリカの弁護士が政府機関に情報公開を迫った際、その根拠に用いられた考えです。
日本においては「博多駅フィルム提出事件」(最高裁昭和44年11月26日判決)で、報道の自由、取材の自由が国民の知る権利に寄与することに触れたことから、国民の知る権利の存在がはじめて認められました。
法的に「知る権利」とは、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」という憲法第21条1項の「表現の自由」を具体化したものです。
過去の判例でいうと「知る権利」とは、国民が情報を収集する際、国家によって妨げられないという自由権に限定される考え方でした。
つまり、国家に対して積極的に情報の公開を要求する具体的請求権までは含まれないというものです。
憲法学上においても、「知る権利」については、基本的に「知る自由」という抽象的な権利であるにとどまり、請求権まで含めた具体的な権利については、法律による制度化を待つとする見解が有力でした。
しかし、昨今の情勢を見ると、国民が情報を収集することを国家によって妨げられないという消極的な自由権のみならず、積極的に国家に対して情報の公開を要求する請求権をも含むとする学説が、最近多く見られるようになっています。
次に、「コンプライアンス」と「アカウンタビリティー」との関係について説明します。
アカウンタビリティは「説明責任」と訳されます。
国民の「知る権利」の保障をめぐっては、情報公開法が2001年4月から施行されました。
国民主権の原理に則った情報公開制度の構築を目指す試みであったことから、国民の「知る権利」を法にどう盛り込むかが最大の争点でした。
結果として、「知る権利」の保障は具体的なレベルにおいては排除されたが、代わって「アカウンタビリティ」という表現で、政府による「説明責任」が明確になりました。
本来「知る権利」とは、相手側にとっての「説明義務」との関係で構成されるものです。
国民に保障されるべき権利として「知る権利」を位置づけるなら、国民の中でも福祉サービスを利用している者にとっては、なおのこと「知る権利」の保障は大きな意味を持ちます。
福祉サービスを利用する者は、高齢者や障害者、児童というように、一般的にはサービスへのアクセスに何らかの障害をもつ場合が想定されます。
知る権利をめぐる裁判事例
「知る権利」と関連して、行政側からの福祉サービスをめぐる周知徹底義務について争った裁判に「永井訴訟」があげられます。
聴覚に障害をもつ原告が、児童扶養手当の支給要件に該当することを知らなかったためにその請求が遅れたとして、社会保障給付の実施主体である行政庁に、福祉サービスについての周知徹底義務違反を求めた事件です。
一審では、「行政には広報義務がありそれを怠った」として、行政側に遡及支払を命じる判決が出されました。
最終的には最高裁で「棄却」され、敗訴という結果になりましたが、裁判途中から福祉事務所に手話通訳がつくようになったり、広報等への情報掲載に工夫が図られるなどの具体的な改善が図られた点では、非常に意味のある裁判だったと言えます。
今後、「知る権利」を具体的にどう保障するかといった視点からは、年齢や障害の有無・程度に応じた取組みが、「説明責任」との関係で整理されなければならないでしょうね。
では、社会福祉と知る権利との関係については、どう整理すればいいでしょう?
とくに、社会保障や社会福祉の領域においては、「知る権利」の保障という視点から考えると、福祉サービスを提供する側からの「説明責任」がより重要になってきます。
高齢者介護でいえば、介護保険制度が2000年度からスタートし、福祉サービスにおける契約化がサービス提供者と利用者の間ではじまって早くも10年以上が経ちます。
高齢で且つ要介護状態でもある利用者にとって、「知る権利」の行使、すなわち必要な情報を正確に入手し、ひいては隠された情報までも請求することは、事実上不可能でしょう。
ましてや介護サービスを利用する場合に、介護保険制度全体の中での位置づけや、複雑な利用料の仕組みなどについて、高齢者自らが知ることは至難の業でしょう。
このようなことから、介護保険法等においてもサービス事業者には利用者や家族に対し説明義務のあることが明記されています。
具体的には、介護支援専門員(ケアマネジャー)が介護計画を作成しますが、その計画には利用者本人やまた家族の意向が反映され、介護計画書の確定については計画内容をめぐって十分な説明を利用者や家族に行ない、個々のサービスについての説明も十分に行なわなければなりません。
福祉サービスの提供について、ここまでの説明が求められる理由には、福祉サービスの利用者が一般的に精神能力・判断能力に十分ではない場合が多く、サービス提供者である事業者側からの「説明責任・義務」をもって、「知る権利」の具体的行使を保障するという考え方にもとづくものだからです。
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