年金をめぐる裁判の動向
数年前の「年金の空白期間」問題以降、年金をめぐる話題はあまりクローズアップされなくなりましたね。
それよりも今は、「景気対策」、「雇用確保」と言ったところでしょうか?
しかし、これまでのブログでも紹介しましたとおり「負担と給付」は表裏一体のものです。
年金をめぐる裁判事例の一部を載せておきます。
とくに今月末は社会福祉士・精神保健福祉士の国家試験があります。受験対策としても、また受験勉強の合間にでも、復習や確認のつもりで、ご覧になって下さい。
年金保険の領域では、従来福祉年金の受給要件をめぐるものや国籍要件を争うもの、併給調整などが代表的でしたが、最近では高齢者の老後における所得保障といった経済的生活保障、具体的には重婚的内縁関係から派生する遺族年金受給権をめぐるものや、離婚による財産分与と年金とをからめたような裁判が多くみられました。
また、交通事故などによる死亡事故にからんで、老齢年金、障害年金と逸失利益との関係を問うものも現れるようになってきています。
国民年金法に規定する国籍要件の合憲性を争点としたものに、塩見訴訟があります(大坂地判昭五五・一〇・二九行集三一巻一〇号二二七四頁、大坂高判昭五九・一二・一九行集三五巻一二号二二二〇頁、最平一・三・二訴月三五巻九号一七五四頁)。
これは全盲の障害を持つ原告が、成人した後日本に帰化し国民年金法の障害福祉年金の裁定を求めたところ、日本国民ではないという理由で請求を却下されたものであり、憲法一四条、二五条に違反するとして処分の取消を求めた裁判です。
地裁では拠出制年金の対象者が日本国籍の者に限られていることから、経過的制度としての障害福祉年金においても同様に認められないとし、高裁でも同様に、障害福祉年金の支給対象者に対し国籍に関する規定をおいていないものの、法五六条一項ただし書による制限があり、廃疾認定日において日本国籍がない者には支給しないとして請求を退け、最高裁も同様の判断を下しています。
とりわけ在日韓国・朝鮮人と関係して、かつての国民年金法上存在していた国籍要件を争ったものも多く存在します(東京地判昭五七・九・二二行集三三巻九号一八一四頁、東京高判昭五八・一〇・二〇高民集三四巻九一二号一二三頁、東京地判昭六三・二・二五訟月三四巻一〇号二〇一一頁)。
また、併給調整をめぐっては障害福祉年金と児童扶養手当の併給調整を争点とした堀木訴訟(神戸地判昭四七・九・二〇訟月一八巻一二号六〇頁、大坂高判昭五〇・一一・一〇行集二六巻一〇・一一号一二六八頁、最大昭五七・七・七民集三六巻七号一二三五頁)、夫婦の受給制限を争点にした牧野訴訟(東京地判昭四三・七・一五行集一九巻七号一一九六頁)や松本訴訟(神戸地判昭四九・一〇・一一行集二五巻一一号一三九五頁)、さらに老齢福祉年金と障害福祉年金との併給を争点とした森井訴訟(大阪高判昭五四・五・二三訟月二五巻一〇号二六三三頁)などがあります。
次いで、年金と逸失利益との関係では、障害年金受給者が他人の不法行為により死亡した場合に、その受給者が将来受けるべき年金と逸失利益とを争点として起こされた損害賠償請求事例があります(那覇地判平七・一〇・三一判タ八九三号一九八頁)。
裁判所は障害年金受給者が他人の不法行為により死亡した場合に、その受給者が将来受けるべき年金は逸失利益と解されるとして原告の主張を受け入れました。
また、道路を横断中被告運転車両に衝突され死亡した者の遺族が、被告に対し民法七〇九条に基づいて損害の賠償を求めた年金の逸失利益性を争点としたものもあります(大阪地判平七・一一・一五判タ九一〇号一七三頁)。
判決では老齢年金について逸失利益を肯定し、遺族年金については逸失利益性を否定した結果となりました。これらは年金保険制度が一応整備され、所得保障の役割を強く持つことが、損害賠償請求の中の逸失利益という形で現れたものです。
そして年金保険制度が拠出制をとっている社会保険制度であることと関連して、死亡するまでの期間に応じて年金支給総額が変化するなどの仕組みを有する国民年金制度をめぐって、国民年金制度と憲法二九条との関係から国民年金掛金返還請求がおこなわれたものもあります(京都地判平一・六・二三判タ七一〇号一四〇頁)。
さらに、最近の高齢者をめぐる生活保障という点では、離婚による財産分与として、夫の年金と妻の年金の差額の四割を妻の死亡まで支払うことが命じられた事例があり、高齢期に入った熟年離婚における財産分与と年金を争点としたものがあります(横浜地判相模原支部平一一・七・三〇判時一七〇八号一四二頁)。
判決では、財産分与について、共同財産の清算の外に双方の年金受領予定の差額の四割を、妻の死亡まで毎月支払うことを認めたものでありました。
続く高齢者の問題としては、重婚的内縁関係に伴う年金裁判として遺族年金の受給権をめぐる裁判が最近数多くみられます。
これには、遺族年金請求棄却処分取消請求控訴事例があり、婚姻関係の形骸化と、国家公務員等共済組合法の「配偶者」との関係を争点としたもので、判決では外形的には婚姻関係は形骸化していたとしても、婚姻関係継続の意思を有していた控訴人は、なお法二条一項三号にいう「配偶者」にあたると解するのが相当という判決を下しています(東京地判平四・一一・一〇、東京高判平五・三・二二訟月三九巻一一号二三八八頁)。
おなじ遺族共済年金受給者決定処分取消等請求事例でも、地方公務員等共済組合法二条一項三号の「遺族」である配偶者は戸籍上の妻か内縁の妻かを争ってのものでは、戸籍上婚姻の届出をしている者であっても、婚姻関係が実態を失って事実上の離婚状態にあるときは、地方公務員等共済組合法二条一項三号の「遺族」である配偶者にはあたらないという判断を下しています(東京地判平五・一・二〇判時一四六四号五一頁)。
その他、遺族年金の受給権者たる遺族の範囲や配偶者の概念について(東京地判昭六三・一二・一二行集三九巻一二号一四九八頁、最昭六〇・二・一四訟月三一巻九号二二〇四頁、最昭五八・四・一四民集三七巻三号二七〇頁)などもあります。
重婚的内縁関係をめぐる遺族年金受給権については、一方で有責配偶者からの離婚請求の是非が問われる点に特徴があります。
くわえて近年では、バブル経済崩壊後の影響から、会社経営の倒産によって厚生年金基金の破綻と理事の損害賠償責任を問うものなどもみられます(大阪地判堺支部平一〇・六・一七労判七五一号五五頁)。
年金は、社会保障制度の中でも所得保障を軸にした中心的な制度です。
所得破壊がみられる今、生活保護と同様、年金にも目を向けるときでしょうね。
2009年01月08日
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