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2009年01月07日

医療・医療保険の裁判

爆弾医療や医療保険をめぐる裁判の特徴爆弾
 
 メール等での皆さんからの要望が多かったものに、「社会福祉や介護、社会保障に関する実際の裁判って、どんなものがあるの?」という質問が寄せられていましたので、順を追って載せていきたいと思います。

 まずは、医療や医療保険に関する裁判事例です。  

 医療保険の領域では、雇用関係が不安定な労働者の被保険者資格に関する裁判が、これまでの医療保険制度創設期にあって多くみられました。

 しかし最近では適正な医療のあり方をめぐって、診療報酬にかかわる医療機関の争いや、もっと広い意味での医療保障として、患者の自己決定権に関するインフォームドコンセントの問題なども裁判として現れるようになってきています。

 言い換えると、これらは制度としての医療保険が一応整備された現在、よりよい医療をスローガンに、患者や家族が権利としての医療保障を求めている実態がわかります。

 ここでは、医療が制度として誕生した一九五〇年代から、少子・高齢化を迎え財源面での問題を抱えながら制度改革が必要とされる現在の医療保険のなかで、医療保障をめぐる裁判事例の特徴と争点を整理したいと思います。

 医療保険をめぐる従来の裁判で比較的多いものは、被保険者資格に関わるものです。
 例えば、健康保険法・厚生年金保険法の適用事業所である事業主が、被保険者資格取得届を提出したところ、保険者が取得届の提出日に遡及して被保険者資格の確認をしたことの是非が問われたものがあります(最昭四〇・六・一八判時四一八号三五頁)。 また被保険者資格をめぐっては、使用関係の判断基準を争点としたもの(名古屋地判昭六〇・九・四判時一一七六号七九頁)や、労働争議に伴う長期の就労拒否があった場合の被保険者資格について(仙台高判平四・一二・二二判タ八〇九号一九五頁)、さらに国民健康保険被保険者と住所との関係を争点としたものなどがあります(大阪地判昭四四・四・一九判タ二三七号・二九六頁)。

 そして診療報酬請求権の発生要件をめぐって、医療機関と支払基金とが争ったものもあります(神戸地判昭五六・六・三〇判時一〇一一号二〇頁、大阪高判昭五八・五・二七判時一〇八四号・二五頁)。

 また、戦争の傷跡を残した被爆者医療との関係では、推定被曝線量が閾値を大きく下回る場合の原爆症認定却下処分が取り消された原爆被爆者医療給付認定申請却下処分取消請求をめぐり、推定被曝線量が閾値を大きく下回る場合における原子爆弾被爆者の医療等に関する法律七、八条適用との関係を争点としたものがありました(長崎地判平五・五・二六判時一四六五号六六頁)。判決では、その治癒に被爆後二年ないし二年半という免疫機能の低下を考えなければ説明がつかない程に異例の長期間を必要としたことなどから、原子爆弾による爆風の傷害作用であるとする原告の主張を認めたものがあります。その他、争点は異なるものの同様のものに(広島地判昭五一・七・二七判時八二三号一七頁、大阪地判平四・一〇・二行集四三巻一〇号一二四一頁、大阪高判平五・一一・二六行集四四巻一〇・一二号一九一四頁)などがあります。

 最近の患者の権利を象徴するものとして、医師による治療の説明義務いわゆるインフォームドコンセントがあげられ、宗教上の理由から輸血ができないエホバの証人と医療をめぐるものがありました。

 これは、宗教上の理由から輸血を受ける事を拒否していたエホバの証人が、救命手段がない事態にいたっては輸血をするとの病院の方針を、病院側が説明しないで輸血をした場合の医師の不法行為責任をめぐり、絶対的無輸血合意の存否と医師らの不法行為の成否及び輸血の違法性、説明義務と自己決定権との関係を争点としたものです(東京地判平九・三・一二、東京高判平一〇・二・九、最平一二・二・二九、判時一七一〇号九七頁)。

 地裁では、絶対的無輸血の特約は公序良俗に反するとして原告の主張を退ける結果となっているが、高裁では病院側輸血の方針を説明する義務を怠り、そのため他の診療機関による受診の権利を侵害したとして病院側の過失を認め、最高裁でも輸血を伴う医療行為の拒否という意思は、人格権の一内容として尊重されるとして病院側の主張を退ける判決を下しました。
 
 くわえて最近のインフォームドコンセントをめぐる医療裁判には、医師が患者が肺癌である事を患者に告知する事の適否について検討すべき義務を懈怠したとして、慰謝料の支払いを命じられた事例(秋田地判平八・三・二二、仙台高判平一〇・三・九判時一六七九号四〇頁)や、腎臓移植のドナーに対し、心停止前に移植に備えて腎臓に灌流液を流すためのカテーテルを挿入する行為は、ドナー本人のその行為を承諾する確定的な意思表示を要し、これなくしてなされた行為は違法であるとされた事例などもあります(大阪地判平一〇・五・二〇判時一六七〇号四四頁、同様のものとして名古屋地判平一二・三・二四判時一七三三号・七〇頁)。

 また病院での医療事故として医師の過失と病院側の使用者責任が問われたものもあります。
 これは双子を妊娠し一方の胎児の心臓音に異常があったが、その発見が遅れるなどし、胎児の一方が死亡したまま放置され、他方がそのために重度の脳障害を負った事故について、担当医師の過失が認められ病院側の使用者責任が肯定された事例でしたね(東京地判平一〇・一二.・四判時一六八一号一三一頁)。さらに救急医療の場面において救命期待権を主張したものでは、肺塞栓症の医療過誤訴訟において、救命期待権の侵害による慰謝料請求が認容された事例などがあります(金沢地判平一〇・二・二七判時一六七〇号五八頁)。

 くわえて、健康被害という視点からの裁判では、腎炎治療の目的で医師から投与されたクロロキン製剤の副作用によって、クロロキン網膜症に罹患した患者やその家族が、クロロキン製剤を販売した製薬会社と国を相手取って損害賠償を求めたものもあります(東京地判昭六二・五・一八訟月三四巻二号三二七頁、東京高判平六・九・一三訟月四一巻一一号二七一五頁)。
 地裁では製薬会社に対する損害賠償請求のみを認容しましたが、高裁では国家賠償法により国に損害賠償義務があるとしました。
 さらに最近の製薬会社や国をめぐる健康被害という点では、薬害エイズ訴訟があげられ、製薬会社に対し高度な安全注意義務があるとして製薬企業の責任を認め、企業の責任者に対して刑事責任を認めたものもありました(大阪地判平一二・二・二四判時一七二八号一六三頁)。

 そして健康保障としての予防医療をめぐっては、種痘などの強制接種やインフルエンザなどの勧奨接種により健康の被害を被ったとして、国に損害賠償と損失補償を求めたものもあります(東京地判昭五九・五・一八訟月三〇巻一一号二〇一一頁、東京高判平四・一二・一八高民集四五巻三号二一二頁、仙台地判昭六〇・三・一二判時一一四九号三七頁、仙台高判昭六三・二・二三判時一二六七号二三頁)。

 また公害による健康被害としては、大阪市西淀川区に居住する住民が、企業や国および道路公団を相手に損害賠償と有害物質の排出差止を求めて提訴したものもあります(大阪地判平三・三・二九訟月三七巻九号一五〇七頁)。

 記憶に新しいところでは、ハンセン病患者をめぐる施策のあり方として、らい予防法廃止までの隔離政策に国家賠償法上の違法性及び過失があるとした判決も存在し、この事件については国も控訴を断念する結果となりました(熊本地判平一三・五・一一判例集未登載)。

 特に医療分野については、医療技術と言いますか、科学技術の進歩によって、従来の法律や生命倫理では図りきれないような「事実」が先行していると言った感じですねどんっ(衝撃)
posted by タムドク at 16:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 裁判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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